催し場所上空のドローン飛行許可申請ガイド【2026年版】イベント・フェス・スポーツ大会で押さえるべき手続き・安全対策・実務のポイント
はじめに
「地域のお祭りをドローンで空撮してほしい」「スポーツ大会の演出にドローンを使いたい」「フェスの映像を上空から撮影できますか?」——ドローンビジネスを始めると、こうしたイベント関連の依頼は比較的早い段階から舞い込んできます。
ところが、「人が多く集まる場所の上空」でのドローン飛行は、航空法上の特定飛行に該当し、国土交通省への飛行許可申請が必要です。この「催し場所上空」の申請は、一般的な許可申請よりも書類の要求水準が高く、イベント主催者との事前調整も欠かせません。
にもかかわらず、申請手続きを知らずに飛行してしまい、現場で行政指導を受けたり、事故が起きて大きな損害賠償を負うケースが後を絶ちません。
この記事では、催し場所上空でドローンを飛ばすための法的根拠から、DIPS 2.0での申請手順、主催者との調整方法、現場での安全管理まで、ドローンビジネスを展開する中小企業・個人事業主が実際に必要な情報を一から解説します。
第1章:「催し場所上空」とは何か——航空法上の定義と対象範囲
1-1. 法的根拠と条文の読み方
「催し場所上空」での飛行が特定飛行に当たる根拠は、航空法第132条の85第1項3号です。条文には「多数の者の集合する催しが行われている場所の上空」と定められています。
重要なのは「多数の者の集合する」という部分。この「多数」の基準は法律上明確に定義されておらず、国土交通省の審査要領では規模・密集度・公開性などを総合的に考慮して判断されます。
実務上の目安として、50人以上が参加し、一般に公開されているイベントであれば特定飛行の対象になる可能性が高いと考えてください。逆に、完全クローズドの社内行事や少人数の私的な集まりは対象外になる場合もありますが、判断が微妙な場合は申請しておく方が安全です。
1-2. 対象となるイベントの典型例
催し場所上空の飛行申請が必要になるイベントの代表例は次のとおりです。
- 屋外フェス・音楽イベント
野外コンサート、ロックフェスティバル、音楽祭など、人が密集する会場でのイベント。
- スポーツ大会
マラソン・トライアスロン・自転車レースなど公道を使う競技、サッカー・野球などのスタジアムイベント。
- 伝統的な祭り・花火大会
神社の例大祭、盆踊り、地域の花火大会など、参集人数が多いもの。
- 展示会・博覧会
モーターショー、農業フェア、地域物産展など、屋外または半屋外で行われるもの。
- 市民マラソン・駅伝
コース上空を飛行する場合は特に注意が必要で、沿道観客も含めて「催し場所上空」と判断されることがあります。
1-3. 「上空」の範囲はどこまでか
「催し場所上空」の範囲についても注意が必要です。会場の真上だけでなく、人が集まっているエリアの水平方向に広がる空間全体が対象になります。
たとえばマラソンコースの沿道に観客が並んでいる場合、コース脇の上空も「催し場所上空」とみなされるケースがあります。飛行経路を設計する際は、観客・参加者の位置を考慮した上で、安全マージンを十分に取ることが重要です。
第2章:なぜ特定飛行扱いになるのか——リスクと罰則の理解
2-1. 人口密集上空の飛行がなぜ危険か
催し場所上空でのドローン飛行が特定飛行として規制されているのは、事故が起きた際の被害規模が甚大になるリスクがあるためです。
地上に大勢の人が密集している状況でドローンが墜落すれば、複数人が同時に負傷する可能性があります。さらに、パニックが起きれば群衆事故につながる危険性もあります。
特にエンターテインメント系のイベントでは、観客の多くが上空を見上げたり、スマートフォンで撮影したりしていることがあり、ドローンの存在に気を取られて人が密集・転倒するリスクもあります。
2-2. 無許可飛行の罰則
無許可で催し場所上空を飛行した場合、航空法違反として1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます(法人に対しては両罰規定あり)。
さらに事故が発生した場合には、民法第709条に基づく不法行為責任として損害賠償請求を受けるリスクがあります。被害者が多数の場合、賠償額は保険の上限を超える可能性も否定できません。
2-3. 事業者としての信頼失墜リスク
罰則以上に深刻なのが、事業者としての信頼失墜です。イベント主催者・スポンサー・メディアが集まる場での事故は、SNSで瞬時に拡散され、取引先の喪失・事業継続の困難につながります。
ドローンビジネスは「信頼」が最大の資本であり、1件の不祥事が事業全体を危機に陥れることを強く意識しておく必要があります。
第3章:DIPS 2.0での申請手順と必要書類
3-1. 申請の基本的な流れ
- DIPS 2.0にログインし、「無人航空機飛行許可・承認申請」メニューから新規申請を開始します。
- 飛行形態の選択で「多数の者の集合する催しが行われている場所の上空」にチェックを入れます。
- 機体情報・操縦者情報を登録・選択します(既に登録済みの場合は選択)。
- 飛行概要・期間・経路を入力します。イベント名、会場住所、飛行予定日時、予備日なども明確に記載します。
- 必要書類をアップロードし、内容を確認して送信します。
審査期間は標準で10〜15営業日程度ですが、大規模イベントや初回申請の場合は20営業日以上かかることもあります。イベント日程が決まっている場合は、遅くとも1〜2ヶ月前には申請を完了させてください。
3-2. 催し場所上空申請で特に重要な書類
通常の許可申請に加えて、催し場所上空ではいくつかの追加書類が求められます。
飛行計画書
- イベントの概要(名称・日時・参加予定人数・会場規模)
- 飛行経路図(参加者・観客の位置と飛行エリアの関係を明示)
- 飛行高度と速度の設定根拠
特に「地上の人との距離をどのように確保するか」が審査の焦点になります。観客の頭上を直接通過しないルート設計や、万一の落下時に人に当たらないような高度・距離の設定を、図面と文章で説明します。
安全対策書
催し場所上空では、安全対策書の内容の充実度が合否を左右します。例えば次のような項目を具体的に記載します。
- バッテリー交換時の手順と場所
- 緊急着陸地点の指定(人が立ち入らないスペースの確保)
- 飛行エリアへの立入禁止区画の設置計画(ロープ・コーン・バリケード等)
- 補助者の配置計画(人数、配置位置、役割分担)
- 気象条件の判断基準(風速・雨量など)と中止基準
イベント主催者の同意書
法律上の必須書類ではありませんが、実務上ほぼ必須と考えてください。主催者の許可なくイベント会場でドローンを飛ばすことは、不法行為になる場合もあります。
第4章:イベント主催者・会場管理者との調整術
催し場所上空での飛行許可申請で多くの事業者がつまずくのが、「主催者との交渉」です。DIPS 2.0への申請は行政手続きですが、イベント会場でドローンを飛ばす権限を得るためには、主催者・会場管理者の両方から同意を取り付ける必要があります。
4-1. 主催者へのアプローチ方法
主催者への連絡は、イベント開催の2〜3ヶ月前を目安に行いましょう。大型イベントほど担当部署が分かれており(制作・広報・安全管理等)、承認に時間がかかります。初回連絡はメールが基本で、以下の内容を簡潔にまとめた提案書を添付します。①事業者の紹介(会社名・実績・保有資格)、②飛行目的と提供できる成果物(映像・写真)、③飛行計画の概要(時間帯・エリア・高度)、④安全対策の概要、⑤保険の加入状況。
主催者側が最も気にするのは「安全性」と「責任の所在」です。「万一事故が起きた場合、誰がどのような責任を負うのか」を明確にした上で、免責事項や保険対応を書面で確約できると交渉がスムーズに進みます。行政書士が作成した飛行計画書・安全対策書を提示することで、専門的な対応をしているという信頼感を与えることもできます。
4-2. 会場管理者との別途調整
イベントの主催者とは別に、会場(公園・競技場・広場など)の管理者への申請・許可が必要な場合があります。公園での飛行は自治体の公園管理課、競技場は施設管理者、道路を使う場合は道路管理者(市区町村・都道府県)への許可が別途必要です。航空法の許可とは別に、各施設・敷地に関する「土地の使用許可」が必要なケースは多く、これを取り忘れると当日に入場を断られることがあります。
4-3. 警察・消防との事前連絡
大規模なイベントでは、警察(道路使用許可・警備計画)や消防署(緊急時の対応計画)との事前調整が必要な場合があります。ドローン事業者として直接連絡する義務はありませんが、主催者を通じてドローン飛行の計画が関係機関に共有されているかを確認しておくことで、当日のトラブルを防げます。地域の安全を管轄する機関に「ドローンが飛ぶ」という情報が共有されていない状態は、不測の事態への対応が遅れる原因になります。
第5章:現場での安全対策と緊急対応プロセス
書類が整い、許可が下りた後も、現場での安全管理こそが最も重要です。催し場所上空の飛行は「一発勝負」の緊張感があります。フライト中は常にリスクを意識した運用体制を維持してください。
5-1. 飛行前の準備チェックリスト
イベント当日の飛行前には以下を必ず確認します。【書類】許可証の原本携行・主催者同意書の携行・保険証書の携行・緊急連絡先リストの準備。【機体】バッテリー満充電(予備も含む)・プロペラ傷ひびなし・ファームウェア最新版・フライトコントローラーキャリブレーション実施済み。【現場環境】飛行エリアの下見実施・立入禁止区画の設置完了・補助者への役割説明実施・緊急着陸地点の確認・当日の風速・天気確認(中止基準の確認)。
5-2. 飛行中の安全管理ルール
観客の頭上を直接通過するルートは絶対に設定しないことが大原則です。人が集まるエリアの真上ではなく、端や隣接する空きスペース上空を使う飛行計画を立ててください。また、飛行中は操縦者と補助者が常時コミュニケーションを取り合い、機体の位置・周辺の人の動き・機体の挙動の異常を相互に確認します。イベントの騒音や音楽が大きく、無線機の音声が聞こえにくい場合は、ハンドサインなど音以外のコミュニケーション手段をあらかじめ決めておきましょう。
5-3. 緊急事態発生時の対応フロー
万一の場合に備えて、緊急対応フローを事前にチーム全員で共有しておきます。①機体に異常を検知したら、即座に安全な方向(人のいない場所)へ誘導または緊急着陸を実行。②着陸後、補助者が現場の安全を確認し、必要に応じて周辺の人を誘導。③主催者・会場管理者へ速やかに報告。④負傷者がいる場合は救急への連絡を最優先。⑤事故状況を写真・動画で記録し、後日の報告書に備える。このフローを「口頭確認カード」として印刷し、補助者全員が携行するとよいでしょう。
5-4. 映像の取り扱いと個人情報保護
イベント会場で撮影した映像には、参加者・観客の顔やナンバープレートが映り込む可能性があります。個人情報保護法の観点から、映像の利用目的・管理方法・第三者提供の有無などを事前に主催者と合意し、必要に応じてプライバシーポリシーを参加者に周知することが求められます。特に商業利用(SNS投稿・PR動画・放送)の場合は、肖像権・著作権に関する同意を適切に取得してください。
第6章:よくある失敗パターンと行政書士活用のポイント
催し場所上空の飛行申請は複合的な手続きが必要なため、経験が浅いうちはさまざまなミスが起きやすいです。典型的な失敗と、それを防ぐための対策を整理します。
6-1. よくある失敗パターン4選
【失敗①:主催者の同意を口頭だけで済ませた】「担当者にOKをもらった」と思っていたが、書面がなく当日に「そんな許可は出していない」と言われたケース。イベント側の担当者が変わることもあるため、必ず書面(メールでも可)で記録を残してください。
【失敗②:会場の土地使用許可を取り忘れた】DIPS 2.0の許可(航空法上の許可)は取得したが、公園の使用許可を取っておらず、当日に公園管理者から「飛行機材を持ち込む場合は申請が必要」と言われて中止になったケース。航空法の許可と土地の使用許可は別物であることを常に意識してください。
【失敗③:飛行エリアの安全区画を設けなかった】観客が飛行エリアに近づきすぎ、安全距離が確保できなくなって飛行を中断したケース。飛行前にロープ・コーンで明確に立入禁止区画を設け、補助者がその管理を担当する体制が必須です。
【失敗④:保険の賠償額が主催者の要求に満たなかった】1億円の保険で申請したが、主催者から「3億円以上の保険証書でないと認められない」と言われ、直前に保険を変更できず案件を失ったケース。大規模イベントでは保険の要求水準が高い場合があるため、受注前に主催者側の保険要件を確認しましょう。
6-2. 行政書士に依頼するメリットと費用の目安
催し場所上空の申請は、一般的な特定飛行申請の中でも書類の要求水準が高く、初めて取り組む事業者には難易度が高い申請のひとつです。行政書士に依頼することで得られるメリットは大きく3点あります。
①審査に通る飛行計画書・安全対策書の作成:「地上の人との距離の確保方法」など審査官が重視する観点を押さえた書類を作成してもらえます。②主催者への交渉資料の作成:専門家が作成した提案書は主催者への信頼度を高め、同意取得をスムーズにします。③複合申請のワンストップ対応:航空法の申請・土地使用許可・道路使用許可など複数の手続きをまとめて代行・サポートしてもらえます。
費用の目安は、催し場所上空の1件申請で3万〜8万円程度が相場です。継続的にイベント撮影案件を受注する予定がある場合は、包括申請(年間複数案件を一括で申請)を行うことで費用を抑えられます。依頼前には「イベント・催し場所上空の申請実績があるか」を必ず確認してください。
まとめ:準備と調整が収益化の鍵
催し場所上空のドローン飛行は、適切な申請と準備を経れば、ドローンビジネスにとって大きな収益源になります。フェス・スポーツ大会・祭りの空撮映像は希少価値が高く、単価も一般案件より高めに設定できます。本記事のポイントをまとめます。
【ポイント①】航空法第132条の85第1項3号に基づく特定飛行。50人以上・一般公開のイベントが対象の目安。判断が微妙なら申請しておくのが安全。
【ポイント②】DIPS 2.0への申請(国の許可)・主催者同意書・会場使用許可の3つがそろって初めて飛行できる。どれかが欠けると当日NG。
【ポイント③】安全対策書の充実度が審査の合否を左右する。立入禁止区画・緊急着陸地点・補助者配置を具体的に記載する。
【ポイント④】保険は対人・対物1億円以上を最低ラインとし、大規模イベントでは3億円以上の要求もあることを頭に入れておく。
【ポイント⑤】初めての催し場所上空申請は、実績のある行政書士への依頼が時間・リスク両面でコストパフォーマンスが高い。
イベント空撮の実績を積み重ねることは、ドローン事業者としてのブランド力向上にもつながります。最初の1件を丁寧に成功させることで、口コミ・紹介による継続的な案件獲得が期待できます。正しい手続きと万全の準備で、イベント空撮市場に参入しましょう。
関連記事
本記事は公開・更新時点の情報に基づいています。制度・法令は改正されることがあります。実際の申請にあたっては、国土交通省・DIPS 2.0等の公式情報で最新の内容をご確認ください。
申請手続きは専門家への相談がおすすめです
ドローンの飛行許可・承認申請は、ルールが複雑で申請漏れのリスクもあります。手続きに不安を感じたら、行政書士などの専門家への相談をご検討ください。
他の記事も読んでみる →